私は、近現代東アジアの地域大国である日本と中国に挟まれた一種の緩衝地帯として国家帰属の面で変転を重ねてきた、沖縄・台湾・韓国の近現代の歴史経験を比較検討しつつ、沖縄の近現代史を中心的な研究テーマとしてきた。研究環境を整える前提として、資料収集・関係者のオーラルヒストリーの編集公刊などを行い、研究基盤の整備を進める一方で、主題的には、その「小国」としての歴史経験の中で育まれてきた思想の意義を明らかにする作業に取り組んできた。本研究は、米国統治下の沖縄戦後史(1945-72年)の中で、その最終段階となる施政権返還期(1969-72年:日米両国による沖縄施政権の返還決定から返還実施まで)における思想経験の独自性とその意義を明らかにし、併せて申請者の10年来の沖縄戦後史研究の集大成を完成させ、その成果を東アジアの近現代史をめぐる国際的な討議空間に向けて発信しようとする取り組みである。 平成20年度は、本務校の休暇期間、および通常授業期間に、資料収集と関係者へのインタビュー調査を行い、今後のオーラルヒストリー資料の完成に向けて予備的面談や下準備を実現した。インタビュー調査に当たっては、技術革新の進んでいるデジタルビデオカメラを用いて記録用の撮影も行い、後のマルチメディアを駆使した成果発表に備えた。文書資料については、沖縄県公文書館に新たに収蔵された米国統治期の機密解除資料を膨大に収集することができた。そしてこの資料の意義の解明に向けて整理調査を進めることができた。
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