前年度においては、本研究課題と大いに重なる沖縄県の米軍基地移設問題が日本の内政・外交両面にわたる一大争点となり、それが鳩山由紀夫首相の辞任など政局を動かすという情況展開があり、研究課題に関わるこうした社会状況の変化を受けて、研究代表者は研究成果を日本国内のメディアや社会的関心の求めに応じて発表し、図書2件、雑誌論文2件、学会発表・講演2件、新聞掲載論説4件など、大きな成果を上げた。これをうけて本年度においては、情況的政治現象の背後にある歴史の論理、思想、哲学などを掘り下げる方向で研究を進めた。 具体的には、第1に、戦後沖縄の思想の土台にある琉球土着の自然思想・哲学について、それをよく保存している奄美群島の思想史を検討し、第2に、政治的な反戦平和運動が自然環境の保全・保護運動と重なり合っていく過程を通史的な思想史の文脈において概観し、第3に、そうした政治と自然保護運動が重なり合う歴史認識の哲学について、グローバル・ヒストリーの文脈から検討し、第4に、上記の研究成果を、国際的に発信する準備を兼ねつつ英文の論文で総括した。 人間社会を自然環境の一構成要素と捉えつつ、自然や他者との共生をはかる琉球・沖縄の社会思想は、国家や民族的集合性を媒介とせずに世界につながろうとするグローバル化の中の地域社会のあり方として先駆的意味を持つ。そればかりでなく、生産力の向上を追求して廃棄物の問題や地域社会の自律性を視野の外に置いてきた近代科学文明に対する反省に立った、新たな環境保全型経済(グリーン・エコノミー)への転換を模索する上でも、日本史において特例的に大きな示唆をあたえると考えられる。
|