今年度は、大分県佐伯市を中心に寺院の什物および堂宇の所在確認調査、同地域の寺院などの分布状況や歴史を知る上で基礎となる佐伯藩政史料の調査とマイクロ複写を実施した。また、信仰の基盤となる村落構造や開発のあり方についても調査を実施した。あわせて、今後の調査実施に不可欠となるベースマップの基礎となる森林基本図の複写を行った。 大分県佐伯市は、近世の支配体系でいえば佐伯藩の支配地となる。このうち、豊後水道沿いの海岸部、特に佐伯湾一帯の海村には、浄土真宗寺院の真宗寺(佐伯市上浦)を除くと村に寺院はなく堂宇のみが所在する。近世の寺檀制のもとでは、こうした佐伯湾一帯の海村は、基本的に城下町に所在する寺院の檀家であったことが確認された。いわば、佐伯湾一帯の海村では、寺檀制に基づく住人の管理は城下町の寺院が一元管理する形をとっていた。 また、当該地域の浄土宗・浄土真宗寺院およびその末堂には、15〜16世紀とされる両宗の伝播以前に製作されたとみられる阿弥陀如来像があり、浄土宗および浄土真宗の広がりは既存の阿弥陀信仰と関わることが確認できた。 そして、豊後水道沿いの村落では、その形成・維持においては、溜池築造や河川の治水が大きな役割を担ったことが確認された。
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