今年度は、大分県臼杵市から別府湾沿岸部にかけての寺院や末堂の所在確認および什物の調査を実施した。また、昨年度に引き続いて佐伯藩政史料の調査とマイクロ複写を行うとともに、豊前国と豊後国の浄土宗および浄土真宗寺院に関わる文献史料の調査を東京大学史料編纂所で行った。 また、浄土宗および浄土真宗寺院の歴史と文化については、由緒書をはじめとする古記録類の検討が肝要である。一連の調査で、西山浄土宗の大橋寺(臼杵市)や浄土真宗の覚正寺(日出町)などの記録類を調査した。その成果として、覚正寺所蔵の江戸時代の『年中行事記』を翻刻し、博物館の研究紀要に掲載した。 昨年度からの調査で、浄土宗および浄土真宗寺院のうち、開基の由緒が古い寺院は、門徒が寺院の所在地周辺だけでなく、遠隔地にも広汎に分布することが改めて確認された。覚正寺はそうした寺院の1つで、広汎な門徒分布は江戸時代からみられることが、『年中行事記』で確認できた。このような門徒分布の形成がどのような要因に基づくか、ある一定のエリアでの門徒分布を一覧にすることは今後の課題としてある。特に、宇佐市院内町・安心院町は、覚正寺をはじめ遠隔地にある複数の浄土真宗寺院の門徒が分布し、上述した寺院と門徒との関係を検討する上で1つのモデル地区になると考えられる。 なお、一連の調査の成果について、真宗大谷派日豊教務所で「浄土真宗と阿弥陀信仰」の題名で研究代表者の櫻井が講演を行った。これは、調査成果の公開の一環として、現段階での調査報告を寺院の御住職などの寺院関係者にお知らせした。
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