今年度は、昨年度に引き続いて別府湾沿岸以南と内陸部の浄土宗および浄土真宗寺院での什物調査を実施した。また、村落の信仰拠点である仏堂の歴史を解明するため、大分県公文書館所蔵の近代行政資料のうち、仏堂の統廃合を記した「社寺検査書類」の分析とともにマイクロ複写を行った。一方、県外での調査は、東京大学法学部法制史資料室で、豊前・豊後の寺院と社会に関する資料調査を行った。 浄土宗および浄土真宗寺院の歴史と文化については、寺院創建以前から、その地域に所在した信仰、特に阿弥陀如来への信仰と結びつきながら、展開したと想定される。今年度、善教寺(真宗大谷派・佐伯市)の「開基仏」とされる阿弥陀如来像の詳細な調査を実施したところ、本像は阿弥陀独尊来迎図の様式であり、14世紀の製作と位置づけられた。寺伝で、善教寺は応永13年(1406)の開基とされており、本像はこうした寺伝を裏付ける什物、すなわち親鸞の教えが豊後水道では、少なくとも15世紀初には伝播していたことが知られる。また、内陸部の拠点寺院の調査では長福寺(日田市)の什物調査を実施した。 このような成果の一端として、長福寺所蔵の聖徳太子絵伝の紹介を博物館の研究紀要に掲載した。本絵伝は、江戸時代に製作されたものであるが、現在の大分県に聖徳太子絵伝の作例は少なく、太子信仰と浄土真宗の広がりなどを考える上でも重要な什物と考える。 なお、調査成果の公開の一環として、博物館において「親鸞聖人絵伝」の講座を行った。
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