本研究は、10世紀アッバース朝・ブワイフ朝の書記官僚アブー・イスハーク・イブラーヒームが執筆した文書集を中心に、後期アッバース朝の文書行政と官僚社会のあり方を検討し、当時の書記官僚の形成した相互規定的文化や行政技術、規範意識などを明らかにすることを目的としている。このため、本年度は研究の第3年度として以下の作業を行った。 1.昨年に引き続き、アブー・イスハーク・イブラーヒーム文書集の各種写本群を継続的に比較検討し、その内容の分析を進めるとともに、イブン・アルアミードおよびサーヒブ・イブン・アッバードの文書集の内容の検討をすすめた。本年度は、特に書記文書や書記史料に現れる「奴隷」の様態とその叙述のありかたに注目し、作業をすすめた。 2.本年度も、アッバース朝後期の代表的な書記典範であるクダーマ・ブン・ジャーファル『書記の流儀』、およびアッバース朝行政に大きな影響を受けたマムルーク朝の書記典範であるウマリー『高貴なる用語』の読解分析を進め、特殊な行政用語の解析をすすめることによって、アブー・イスハーク・イブラーヒーム文書群の理解の深化に努めた。特に、アッバース朝期とマムルーク朝期のアフド文書における「命令文」の比較をすすめ、その特徴の把握と整理に努めた。 3.初期イスラーム史における書記の様態を検討する必要から、「初期イスラーム史研究会」を立ち上げ、若手を中心とした研究者との意見交換。成果発表の場とし、アッバース朝書記研究推進の場を設定した。 4.アッバース朝行政関連図書の購入と整理をすすめ、九州大学所蔵書として設置した。
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