本年度の研究活動として研究代表者華立は、中国第一歴史档案館、清史編纂委員会資料中心、中国国家図書館などで資料の追加収集を行い、現地研究者との情報交換、意見交換も行った。平成20年度以来入手された資料を、中国第一歴史档案館(北京)と国立故宮博物院図書文献館(台北)所蔵の清代梢案文書を中心に整理・解読し、清代海外貿易における洋銅商人集団に着眼する研究を行った。具体的には(1)官民両商による洋銅調達体制成立直後の洋銅官商について、乾隆9年からその任を約40年間担い続けた内務府商人・山西介休范氏一族の活動の全容を詳細に検証し、これまでに不明な点が多かった一族内の責任者交代の経緯、並び各段階における弁銅活動の実態を解明し、国家に負った債務問題で范氏が弁銅官商に指名されたても「領帑弁銅」の待遇を受けられず「借帑弁銅」の苦しい立場に立たされたことが、後の事業破たんにつながったと指摘した。この成果を『清代洋銅官商范氏一族の軌跡』と題して『大阪経済法科大学論集』第100号(2011.3)に発表した。(2)范氏以後の洋銅官商の在り方の変化について、内務府所属の塩商に弁銅業務を抱き合わせる方式は終焉を迎え、民商(額商)の官商業務参入が顕著化した。これに伴い、洋銅商人集団の地域構成にも変化が生じ、蘇商(江蘇・浙江)と徽商(安徽)が交互に弁銅の主導権を握るようになった、との新知見を得ることができた。現在その成果をまとめつつ、平成23年度内に活字化する予定である。なお研究分担者伍躍は、『明代の巡検司-福建の「沿海巡司」を中心に』と題した論文を発表し(『大阪経済法科大学論集』第100号)、明・清時代の海洋政策の重要な一環である巡検司制度の一考察として、明代福建の「沿海巡司」の詳細を明らかにした。
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