研究概要 |
本研究は,フランス第二帝制期において,帝制の統治論理をよく反映する1855年および1867年のパリ万国博覧会にみる理念と組織化〔以下,万博政策〕を考察の場とし,当該期にすぐれて「ワインの街」という個性を強化したボルドーの地域権力に注目する事例研究である。 平成22年度においては,昨年度にひきつづき帝制期の万博政策に関する調査を進め,(1)万博にみられるサンシモン主義的要素と皇帝ナポレオン3世(ないし帝制指導層)の思想的連関を分析し,(2)ボルドーにおける地域権力による万博への対応,およびワイン出品に関する利害状況のありかたを探った。 とりわけ(2)の作業では,1855年と1867年のパリ万博についての資料の収集・分析にとりくみ,両万博においてワインというボルドーの産品がいかにして深いかかわりをもったかという側面とともに、ボルドーにおいて伝統的に重要な貿易品目であった植民地産砂糖と当地のワイン業の密接な歴史的関係性を探った。その結果,ボルドー商業界において,19世紀をつうじて一大論争をなした砂糖関税問題がワイン醸造と深くかかわっていたことが判明した。従来は,国内産テンサイ糖と植民地産砂糖の対立が問題化されるにすぎなかったのであり,ワイン業とのリンクが浮かびあがったことは,本研究による大きな発見であった。今後はこの側面をさらに深く分析することとし,ボルドーの都市指導層とワイン,砂糖といった経済利害の相互連関を考察するにあたり,商業会議所を中心とする商事裁判所,県会,市会など地方機関を横断する人的ネットワーク,およびそれらとより具体的なワイン業利害との関係についての分析にとりくみたい。
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