研究概要 |
本年度の成果としての論文「東独出国運動の発生 : 逃亡の時は過ぎ, 闘うべき時が来た」は, 10年余のちに東独政権党を窮地に追い込むことになる東独出国運動の発生(1970年代半ば)の様相を, 両独国家と教会の関係およびリーザの医師ニチュケのケースを中心に, 詳しく論じた。 その内容はわが国では殆ど知られていないがベルリンの壁を崩壊に導いた最重要要因を明らかにしたものであり, また, ドイツでの研究状況とは大きく異なる視点からの切り込みでもある。通例ドイツにおける研究では国内に留まって東独改革に努力した勢力と国内改革に見切りをつけて出国を希望し東独を捨てた勢力に二分して考えるが, 実は後者の大部分は出国の自由の実現という要求を掲げて体制改革のための闘争を東独国内において展開したのであり, その運動はベルリンの壁開放の1年前の新外国旅行政令として未だ不十分ながら実現し, この新政令がさらなる自由化要求を勢いづけたという見方が私見の視点である。出国運動こそが最も効果的な国内改革を実現させたと言いうる。 出国運動をめぐっては初期から運動当事者と教会と両独国家が複雑な絡み合いをしていた。その象徴の1つがいわゆる「自由買い」(東独内の政治犯を西独政府が買い取るもので, 西独人を含む)であるが, その発端は教会も絡む逃亡援助による逮捕者救援であったことが明らかになった。今後さらにこれら三者の絡み合いに注視しながら, 運動の展開過程を研究する。 なお, 東独政権党政治局・書記局文書をマイクロフィッシュに収録したもの(そのうち既刊行は70年代末まで)を購入したので, 目下それを精査中である。これらの購入を優先したため, ドイツでのアーカイブ調査は予算上の理由から次年度に延期した。
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