本年度は、第1に、上記テーマに関係するドイツでの諸議論を包括的に検討した。その結果、教会関係者の諸議論も含めて、諸議論の大部分が、東独出国運動の性格を著しく誤解した議論であることが判明した。すなわち、殆どの議論が出国運動の国内(東独内)での改革運動でもあったし、しかも最も戦闘的なそれであったということを見ていない。これについての論文をほぼ取りまとめたので、まもなく投稿予定である。 第2に、ドイツ・ベルリンの旧東独秘密警察公文書館(BStU)において本テーマ関連文書を閲覧した。本年度の大部分をかけて周到に事前準備をしたことと同公文書館の研究協力担当職員の積極的な助力があいまって、短期間に約10000ページにのぼる文書を精査することができた。そのうち約5000ページが本テーマにとって有用であることがわかり、それらの複写を申請した。同公文書館の文書は、その性質上、プライバシー情報を含む可能性があるため、公文書館職員が全ページを審査して該当箇所(氏名、住所など)を黒塗りにした形でコピーされるという規則になっている。そのため複写完成・日本への送付には2~3ヵ月かかるだろうとのことであり、まだ到着していない。 第3に、旧東独の政党と政府の公文書をマイクロフィッシュ化した資料のうち1980年代の部分を購入し精査する予定であったが、刊行が予告よりも半年近く遅れてしまい、入荷が翌年度にずれ込んだ。やむなく補助金支出の繰り越し申請をおこない、承認され、その後2010年5月に入荷したが、添付されるべきガイドブックが未完成とのことで、それがようやく同年11月に到着した。そのため目下精査に努めているところである。
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