本研究は、1911年のイギリスにおいて世界で最初の国営強制加入型失業保険制度を導入した官庁である商務院が、なぜそのような革新的な政策を推進したのか、という問題を究明するため、労働政策と対外的通商政策を同時に所管するという商務院の独自な性質に着目した。商務院と労働政策の面で競合する関係にあった地方行政院との比較研究を行い、商務院が最低賃金制度にはきわめて消極的であった点を実証することにより、商務院は労働組合の賃上げ圧力を緩和してイギリスの対外的な産業競争力を維持するために失業保険制度を導入したのである、という新説を提起した。
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