21年度の実施計画では、「当事者団体の動向」について史料の収集と分析整理を進めることを予定した。史料の収集については、刊行一次史料については、Man and SocietyおよびGay Newsの収集を行なうことができた。さらには、60年代後半以降刊行される様になった、おもに性犯罪法に対処するための各種のアドバイス・ブックを収集することができた。また、当事者団体の一次史料としては、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス図書館付属文書館館所蔵の緒資料を相当数収集することができた。以上の一次史料の収集に予想していた以上に時間がかかり、さらに計画していたオーラル・ヒストリー史料につしいては、収集するまでにいたることができなかった。 収集した史料は、なお読解を進めている過程にあるが、これまでの分析からは、1970年代以降には複数の当事者団体が組織され、その活動を顕在化し、それまではひとくくりに「同性愛者」と一括されてみなされがちだったステロタイプなアイデンティティを壊し、より多様セクシャル・アイデンティティの存在を明らかにしていく過程を見て取ることができるように思われる。この多様化の傾向は、保守党サッチャー政権下の1980年代以降も進行したといえる。 中間考察のまとめについては、収集できた史料が予想以上に多かったために、もう少し時間を必要としている状況だが、上述のように、多様な当事者運動が展開されてきたことが確認できたことは、イギリスのいわゆる多文化社会化の性格を特徴付ける上で重要な収穫であったと考えている。
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