本研究は、1967年の同性愛法改革以降の、男性同性愛者に対するイギリス社会の態度変容の過程およびその特質について、未活用の当事者史料やオーラル・ヒストリー史料を中心的に利用して実証的に明らかにすることにあった。そしてそこから、戦後イギリス社会における多文化主義的な価値観の定着の歴史的意義を考察しようとするものであった。その際に、(1)「政権党の政策と法改革の動向」、(2)「教会および医学界の動向」、(3)「当事者団体の動向」、(4)「メディアおよび国民世論の動向」の4つの領域において、それぞれ史料収集・整理・分析を進めていった。 本年度は、以上のような研究計画の最終年度である。一部、補足的な調査と史料収集を行ないつつ、全体の成果の取りまとめ作業に取り組んだ。特に、ブリティッシュ・ライブラリーのSound Archive所蔵のオーラル・ヒストリー史料(聞き書き史料)の収集による収穫があった。 本年度あらためて明らかになってきたことは、1970年代以降も国会を通じて引き続きなされた各種の法改革、欧州レベルにおける多様な裁判闘争、労働組合における当事者グループの結成や大会決議獲得など、さまざまな領域において進んだ差別撤廃の制度化の重要性である。これらは、近年の研究史で軽視されがちな傾向にあったものである。 全体としては、研究成果を報告書にまとめる作業を進めつつ、主要な関連参考文献リストを作成し、ホームページに公開して一定の社会還元をおこなった。
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