4世紀の、特にコンスタンティヌス大帝による政策転換を彼ら為政者の宗教性から説明できるかどうかを検討するためには種々の手続きが必要となり、平成21年度はそのために20年度で行った作業を完成させ、さらなる補強を行うことができた。特に資料の真正性は重要である。具体的には以下の通り。 1)4世紀における帝国の宗教政策を特徴づけるための最も重要な文献と従来見なされてきた『コンスタンティヌスの生涯』の偽書性を明かにし、昨年6月の西洋古典学会で発奉した(下記第1論文)。その後、さらに調査を行い、4世紀末に至っても治安的動機が宗教政策の基本にあったこと、と同時に、加えて政治的動機に基づき政権内に党派形成を目指した動向の端緒が見出されることを確認した。 2)上記第1点と関連して、皇帝の宗教性を探る上でのもう一つの重要な資料としてエウセビオス『教会史』第9巻10章10-11節があり、この詳細な分析から、当資料には重大な箇所でインタポラティオ(第3三者による加筆、もしくは修正)があることが判明した(下記第3論文)。 3)以上の2資料の分析より、大帝の宗教意識を検討する際の資料問題を解決できたため、それを元に宗教意識が政策に及ぼした影響の有無の検討して否定的な結論に達した。一方で宗教政策全般の特徴づけを行い、教会をも支配機構に編入しつつ異教の社会制度との間で中立的二元支配を導入した点にその特徴があるとの結論を得た。 コンスタンティヌスの宗教性の分析から得られた帝国支配における宗教的動機の希薄さの認識はそれ以降の国家と教会との関係を見極める上で、とりわけ従来は宗教的動機に過度のウェイトを置きながら解釈されてきたために、極めて重要であり、場合によっては4世紀宗教政策史の大幅な修正を迫るものである。
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