(1)本年度は、古代ギリシア人の紛争解決方法にどのようなものがあったか、とくに国家権力の直接の介入なしに、市民たちが日常において自律的に紛争解決に当たった様相を明らかにするべく、その証拠の全体的把握に努めた。同時に、そのような紛争解決の諸モードを、古典期民主政のアテナイと、その他のポリスとの間で、比較文化史的方法によって比較検討した。(2)具体的には、法廷弁論の解析を通じて、他人の不法な行為によって損害を被ったと判断した市民が、どのような手段に出て、その被害を回復しようとしたのか、その紛争解決の仕方を検証した。(3)この問題に関して、Missouri大学Ian Worthington教授の来日の機会を捉えて、法廷弁論がいかなるレトリックの構造をもっているか、とくにそのRing Compositionの特性について意見を交換し、アテナイ市民が法廷に現れる訴訟当事者の訴訟能力が、それぞれの市民の社会的地位に相応しているという点について意見の一致を見た。(4)またアテナイ地域社会(デーモス)における人的結合関係の分析、紛争解決における社会的結合関係の機能分析、およびアテナイ裁判機構の分析に時間を費やし、そのため平成21年度に繰り越しを行って、補助事業を行い、平成21年10月末日までに補助事業は完了した。(5)以上の調査研究の結果として、アテナイにおける紛争解決には、地域社会の人的結合関係が訴訟にいたるプロセスの中で積極的機能を話していたことが解明された。とくにデーモス(区)における区民の社会的結合には、訴訟に至る以前の段階で紛争を整理し、解決に導く機能があったことがわかった。
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