(1)本年度は、前年度に引き続き、古代ギリシア人の紛争解決方法にどのようなものがあったかについて探究すべく、史料・研究文献の収集と解読・調査に従事した。調査の焦点となったのは、古代ギリシア人の紛争解決方法にどのようなモードがあったか、また国家権力の介入なしに、市民たちが日常生活において自律的に紛争解決にあたった様相を明らかにし、その証拠の全体的把握に努めることであった。またそのような紛争解決のモードを、古典期アテナイ民主政と、その他のポリスとの間で、比較文化史的に比較検討することであった。 (2)また、ギリシア歴史家断片集の国際的改訂作業であるBrill's New Jacobyプロジェクトに参加し、いくつかの歴史家断片に関して、そのテキスト伝承と研究史について、内外の研究動向をふまえながら、あらたなテキスト確定とコメンタリ作成に従事した。この作業を通して、前4世紀アテナイの住民構成を公共圏の立場から解明した。 (3)前項までの目的を達成するために、短期間、ロンドン大学古典学研究所、及びケンブリッジ大学大学図書館・古典学部図書館に出張し、ギリシア歴史記述のいくつかの古典史料の諸刊行本、および研究文献を調査検討した。その結果、アテナイオスとディオゲネス・ラエルティオスの初版本と、現行刊本との間では大きなテクスト上の開きがあること、またアテナイの奴隷数を40万人と記したクテシクレス断片1のテクスト伝承には、従来の研究史の推定とは異なり、基本的に誤伝・誤写を認めるべきではないとの結論に達した。 (4)以上の研究を総合した結果、古典期における紛争解決モードに関するかぎり、アテナイとそれ以外のポリスとの間では、さほど根本的な差異がないことが判明した。
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