研究課題
初年度(平成20年)の基礎的・準備的な作業を終えて、今年度はマイクロフィルム化された写本の解読作業に入った。聖人祝日暦は一年の始まりを12月24日においている。オットボーニ163番写本は、9世紀にパリのサン・ジェルマン・デ・プレ修道院の修道士ウズアルドゥスが作成した「祝日暦」の系統に属していて、年初は[IX.Kal.Jan]、すなわち12月24日である。これまでの解読作業で興味深い事実は、この写本特有の聖人の取り上げ方で、12月29日を「命日」とするカンタベリ司教聖トマス・ベケットと、12月30日を「命日」とするトゥール司教聖ペルペトゥウスである。前者はイングランド王ヘンリー2世との確執の中で、1170年12月29日に暗殺された人物であり、後者は5世紀のトゥール司教であり、古代末期からポスト・ローマ期にかけての草創期トゥール教会の組織化と宗教儀礼を整備した人物として知られている。聖人祝日暦の特徴は、キリスト教会が創始された時代に殉教した聖人で構成される定番の聖人名に、写本が作成された地方で崇敬されている聖人名が付加されることである。トマス・ベケットとペルペトゥウスは、通例の聖人祝日暦にはその名前が登場しても、その事績が163番写本のように詳細に語られることはなかった。ここからこの写本がイングランド南部、あるいはトウール地方で作成された可能性を想定できる。もっともこれまで分析できたのは、全体のごく一部であり、最終結論は全体の分析を完了するまで待たなければならない。
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Hermeneutique du texte d'histoire.
ページ: 45-51
HERSETEC : Journal of Hermeneutic Study and Education of Textual Configuration, 3-1
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19世紀学研究 4
ページ: 3-12