本年度は、フランク時代の法律行為において用いられた象徴物に関する史料と研究文献の収集、ならびに法的象徴物の使用状況についてのデータの整理を中心的な作業として行った。フランク時代の国王証書ならびに証書の雛形を集めた書式集については史料の収集を終え、これらの史料に基づいて、festucaと呼ばれる棒・藁くずの使用状況を整理した上で、その用法についていくつかの観点から検討を施した。検討の結果は、平成21年3月28日に開かれた日仏歴史学会第一回研究大会において、「家臣制の象徴儀礼再考-フェストゥーカを手がかりとして-」と題して報告した。この報告は、festucaの使用状況の検討にもとづいて、封建家臣関係を結ぶ際に行われた儀礼が、家族関係の象徴世界をモデルとしていたとするフランスの歴史家ジャック・ル・ゴフのテーゼを検証するものである。ル・ゴフはfestucaがフランク時代に養子縁組の手続きで重要な象徴物として用いられていたことを根拠として、上記のテーゼを提出したが、フランク時代におけるfestucaは権利放棄や譲渡や種々の約束など多様な法律行為で用いられており、家族・親族関係の象徴世界と密接に結びついていたことは確認できないことをこの報告で明らかにした。また、festucaがフランク王権の拡大に伴って各地に広まっていった可能性が高いことを明らかにした。この報告の意義は、一方で象徴物の調査に基づいて家臣制の象徴儀礼を再検討するよう促すことにあり、他方で法的象徴物の使用がフランク王権の浸透と深く結びついていたことを明らかにした点にある。
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