本年度は、前年度までに実施した研究の総括を目指した。フランク時代の象徴物の中で、とりわけフェストゥーカと呼ばれる棒や枝を中心として検討を進めてきたが、その成果を、Pour l'histoire d'un symbole juridique:la festuca dans le haut Moyen Age(法的象徴物の歴史のために:中世初期におけるフェストゥーカ)と題して、2010年5月26日にフランス考古・歴史学協会(Societe nationale des Antiquaires de France)の定期研究会において報告した。本報告は、festucaという言葉の使用法を手がかりとして、この象徴物がフランク王権の伸張に伴って意味と用法の変容を伴いながら、他の地域に定着していったことを明らかにするものである。象徴物そのものの使用法の変化とそれを示す言葉の変化との絡み合いに注目することで、法的象徴物の歴史を明らかにする可能性を探っている。 雑誌Hersetecに発表した論文、Un acte perdu de《mainbour》de Clovis III en faveur d'Ingramnus(イングラムヌスのためのクローヴィス3世の滅失文書:「国王保護状」)は、その存在が全く指摘されてこなかったクローヴィス3世の滅失文書を性格づける試みである。この時期の訴訟委任の仕方にはフェストゥーカを用いた手続きと用いないそれとがあったが、本文書はフェストゥーカを用いないもので、孤児を国王保護におくことで訴訟を委ねる方式の手続きを記したものであることを証明した。同じ法的内容の手続きでも象徴物が用いられる場合とそうでない場合とがあったのであり、王権は自らの法行為においては象徴物の使用を避けた可能性が想定される。
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