平成21年度は、20世紀初頭フランスの歴史論争について、以下の5点を解明した。第1に、19世紀末にフランスの歴史学を制覇した実証主義史家のなかに反省の気運が生まれたことを、モノーやラヴィスがしたためた文書から明らかにした。第2に、同時期のドイツで展開されたランプレヒト論争に対するフランス史家の反応を解明することで、20世紀の歴史学の発達における仏独の分岐点が明らかとなった。第3に、シミアンの衝撃的な実証主義史学批判、とくにセニョボス批判への反響を探ることで、防戦に立たされた歴史家の対応や社会学者の主張に親近感を感じる歴史家の存在など、歴史学会に生じた波紋の広がりを解明した。第4に、シミアンの批判の標的になったセニョボスの歴史論や社会科学観およびその問題点などを、セニョボスが方法を論じた主著、『歴史学研究入門』(1898年)や『社会科学に応用された歴史の方法』(1901年)によって検討した。第5に、20世紀初頭のフランスで、歴史家と社会学者の論争の舞台が整った結果、1903年と1906~1908年に連続講演会やシンポジウムが開かれた。そこで繰り広げられた歴史学と社会学との方法論争について、シミアン、セニョボス、デュルケームらの議論を中心に検討した。その議論を整理し、19世紀後半から20世紀初頭のフランス史学史に位置づけることを通して、アナールの揺りかごの1つが解明できた。
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