研究概要 |
島国であるにも関わらずイングランド中世史は,漁業,海運,海軍といった海を生活の場とする海民という視点が十分とはいえない。それには二つの理由がある。一つは現代における沿岸漁業の極端な衰退と国民レベルでの漁食文化の衰退であり。もう一つは, 10世紀から13世紀の史料が,主として課税あるいは紛争解決をめぐる性格をもつが故に,魚があまり史料上に現れないという理由にある。後者は,当時のイングランドで魚食が行われていなかったのでのではなく,逆に魚が生存を支える基本的食料であったが故に,課税の対象にならなかったからと考えられる。その一つの傍証となるのが、新しく14世紀以降には一般的に出現してくる会計録にたくさんの魚が記録されていることである。言わば陸の視点からイングランド史はこれまで記述されてきたわけある。しかし,当時のイングランドの社会が海と切り離されて成立できるはずもなく,海の視点あるいは論理からいま一度中世イングランド史を検討し直す必要がある。 本研究は,(1)環境と技術の柱(2)社会の柱,(3)権利関係の柱,(4)市場と交易の柱,という四つの柱を設定して,中世イングランドの各地域の生業総体の把握を通して,新しいイングランド史理解を提示した。
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