2009年度は、相互の緊密な連携を保ちつつ、高澤、早川それぞれ自分のフィールドに関する個別研究の深化を図った。近世パリを担当する高澤は、当初はフォーブール・サンジェルマン(サン・シュルピス教区)に焦点を絞り、カトリック改革期のミクロな教区世界を分析することを予定していた。しかし、2009年度に実施した現地調査(2010年2月末-3月)において、市壁内にあるサン・ポール教区のほうが史料状況が豊かであることを見出した。サン・ポール教区は、サン・シュルピス教区と並びカトリック改革の中心となった教区であり、高澤が以前研究した聖体会の重要メンバーも居住する地域である。それゆえ今後は、これまでの研究蓄積を生かしつつ、17世紀中葉にサン・ポール教区の司祭、修道会、教区委員たちの間で繰り広げられた抗争を主たる分析対象とする。フランス国立図書館が所蔵する史料については、大まかな輪郭を描くことができた。早川は、宗教改革期のドイツに再洗礼派が広まった現象について、アウクスブルクを事例に検討を進めている。その際に、一都市を越えた広域的な視点でこの現象を捉えることも必要であり、そのために、同じシュヴァーベン地域に位置するカウフボイレンの再洗礼派について検討し、平成21年度はその成果を、宗教改革史研究会のメンバーによる共著の中で発表することができた。本研究が目指すのは、1528年以降、1530年代に入るまで、アウクスブルクにおいては再洗礼派による目立った動きはないと考えられている時期について、トポグラフィックな検討を加えてみることであり、21年度の後半は、そのための租税台帳分析を開始した。
|