本研究は、従来ほとんど研究されてこなかったジャコバン独裁末期のパリ民衆の動きと「世論」を解明することによって、テルミドール9日のクーデタへの見通しを得ることを目的とする。この目的を達成するため、平成20年度は、フランス革命期の主要な印刷史料をマイクロフィッシュ化した「フランス革命研究コレクション」(French Revolution Research Collection)を調査し、わずかながらも利用可能な史料があることを確認した。また、夏期、冬季の各休暇を利用して延べ1ヶ月半ほど渡仏し、すでに蒐集したテルミドール関係史料の疑問点を国立古文書館に保存されたオリジナルに当たって解決するとともに、人口密度が高く政治活動も活発だったパリ中央部に位置するセクションの警察委員によう報告書の調査をパリ警視庁文書館で開始した。 この史料調査ははじまったばかりで研究成果として結実するまでにはまだかなりの時間を要すると予想されるが、今後も継続的に史料の調査・蒐集をおこなってゆきたいと考えている。 これらの史料調査の成果をも背景に、平成20年度は「シャルチエ以後の思想史研究はどのようなかたちをとりうるか」(『歴史学研究』No.843)を公にし、また成蹊大学で開催された国際シンポジウム「デモクラシーとナショナリズム」では、コメンテーターとしての立場から「フランス革命におけるナショナリズムとデモクラシー」について論じた。平成20年度中に刊行する予定でいた「テルミドールのクーデタとは何だったのか」(仮題)は諸般の事情によって刊行できなかったが、平成21年度の夏期休暇中の史料調査をへたのち、できるだけ早期の刊行をめざしたい。
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