平成21年度は、「奴隷貿易とその廃止」を常設化したロンドンの博物館、ドッグランド博物館の「舞台裏」を中心に、この歴史的な記憶が200周年を過ぎた今どのように再記憶されつつあるかを考えながら、それが「歴史における謝罪」問題とどう関わっているかを再考した。特に上記「舞台裏」と深く関わるNPO組織、200周年を顕彰する全国の特別展の多くと連携していたAnti-slavery International(本部ロンドン・Stockwell)の担当者への取材では、「奴隷貿易とその廃止」の記憶とそれがはらむ問題意識が依然として一部マイノリティのものでありつづける一方で、この記憶自体はグローバルな言説化しつつある現状が理解でき、その落差に現代イギリス社会の歪みや「謝罪の力学」を読み取ることができた。また、調査の過程で、200周年を過ぎた今の「奴隷貿易とその廃止の記憶」に「別の顕彰」の動き-21世紀に入って年々高まりつつある「第一次世界大戦勃発100周年」顕彰事業計画-が、旧植民地の本国イギリスへの「貢献」をどう表象するかという問題とも関わって、連動しつつある様子が感じられた。この問題は来年度、具体的に展開したいと考えている。さらには、放送大学の協力を得て、奴隷解放の流れのなかで浮上したサラ・フォーブズ・ボネッタ(1840年代末、タホメー王国の奴隷狩りで捕えられ、生贄として処刑される直前をイギリス海軍に救出され、ヴィクトリア女王の後見を得たアフリカ女性)の生涯とその意味の映像化作業は、予定通りに撮り終えることができた。今後同大学の講義で使用されるなかで、より多くの人びとに大英帝国の光と影を考えてもらえることを強く願っている。
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