初年度である本年度は、18世紀スウェーデン(自由の時代)の政治・経済・社会史を解明するための準備作業が推進された。成果は主に三点にわたる。第一に、18世紀ストックホルム史の考察のために、第一段階として、前史である17世紀における首都化過程およびバルト海貿易のメトロポールへの発展過程を中心に、成立(13世紀中葉)から18世紀までの当都市の特質を確定しながら、18世紀に停滞に陥る前提条件を調べた。その成果の一部は、『スウェーデンを知るための60章』(明石書店)の第15章「起源に訪ねる首都ストックホルム」として近刊の予定である(2009年5月)。第二に、製鉄業と鉄貿易の動向を考察の中心におき、国内産業の展開を対外関係史と関連づけるために、主に製鉄業の発展を中世から19世紀中葉まで概観し、その特質と問題点を抽出した。その成果の一部は、前掲書の第21章「鉄山の歴史」として、これも近刊予定である。第三に、バルト海貿易史研究を進めるために、対外関係史をおさえながら、17世紀と18世紀の貿易形態の異同を明確化する研究を行った。例えば、ウップサラ大学よりレオス・ミュラー氏を招いての研究会はその一環である。さらに、当該問題の解明のため、重商主義論の再検討を企て、ヘクシャーとマグヌソンという二大巨匠の議論の比較検討を進めている。これについては、国際商業史研究会や日本ハンザ史研究会等と連携して、バルト海貿易の特質を解明するために、国際的なワークショップ(例えば、グライフスバルト大学の研究者等)を立ち上げて研究しているところである。なお、今回の研究課題に直結する前回の研究課題(平成17〜19年度科学研究費補助金・基盤研究C)の研究成果報告書「ストックホルムから見た近世スウェーデンと環バルト海世界の研究」が平成20年6月末日に日本学術振興会に提出されたが、これは本研究の重要な布石となっている。
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