二年目にあたる本年度は、前年度に試みた近世スウェーテン政治経済社会史研究をもとに、次の二点を中心に研究を遂行した。第一に、18世紀首都ストックホルムの停滞要因の解明のために、当都市の鉄貿易に関わった大商人の活動形態における変容を追跡しながら、既存の研究史の整理ならびに諸文献の収集や精読を行い、商人の輸出志向の変化を探った。第二に、工業化以前の工業化の諸問題をスウェーデン鉄生産と流通の歴史を通じて考察するという課題のもとに、ウップランドの製鉄工場村(ブリューク)の現地調査に入ることによってワロン鍛冶の現場を視察、旧来のベリィスラーゲン鉱山地帯の鍛冶方法、いわゆるドイツ鍛冶との比較検討を行った。以上の研究調査から、主に次の三点の成果を得た。一つは、『スウェーデンを知るための60章』に「時代を越えて生きる都・ストックホルム」と「鉄山の歴史」いう二つの論考を公表した。二つ目には、ウップランドのワロン・ブリュークのうちの一つ、レーヴスタを訪れ、ルイ・ド・イェールの活動に始まるワロン鍛冶による棒鉄生産現場を視察、ブリュークとは何かという根本問題を確定する試みのなかから、このブリューク=工場村の規模や立地を調査し、ブリューク主の活動と影響力を実地検分しながら、棒鉄の輸出経路である東海岸の港エーレグルンドの役割にいたるまでの調査を行った。くわえて、その他のワロン・ブリューク、すなわちエステルビューやフォシュマルク、ならびにダンネムーラ鉱山にも調査を広げた。三つ目に、旧来のベリィスラーゲン鉱山地帯で最も有名で世界遺産にも指定されているエンゲルスベリ鉱山地区を訪問し、工業化以前にワロン鍛冶に劣らない生産活動を展開していたドイツ鍛冶について視察、ワロン鍛冶と比較考量した。
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