実施計画に掲げた関連未報告資料の整理あるいは既報告資料の再整理については、本年度は京都の篠窯跡群を重点的に取り上げ、地元教育委員会ならびに個人が保管する未報告資料を整理するとともに、大阪大学で発掘調査し、既報告ながら遺物の詳細な報告が完成していなかった篠の大谷3号窯についても、より網羅的な遺物整理を行った。この整理に当たっては大阪大学の学生らの全面的な協力を得ることによって、篠窯北部地域の生産動態をより明確化することができた。このように公にされていなかった資料の地道な基礎データを蓄積することは本分野の資料の不足を補い、今後の学問的な共有財産になりうるものである。またその整理によって、各種の個体数計測データによる統計上の問題点や、製作時の特徴的な手法によって陶工の個人識別が可能になりうることなど、方法論的にも興味深い事実も明らかになった。今後の考古学的な整理方法や分析視角を広げるものと言える。なお、東海諸窯については、東海の窯業生産のシンホジウム企画に加わる中で情報交換なども行った。 もう一つの研究の柱である、色調の測定などに関しては、客観化のために分光測色計により測定を進める予定だが、本年度はその前提的検討として、各種の測色計によるデータと、目視によりJIS標準色票と対比して判定した値とを比較する試みを行った。その結果、測色計のデータには目視判別結果とかなり異なる場合もあることが判明した。その要因には、測色計が必ずしも万全ではなく、資料と密着されないためなどから暗く測定される場合もあり、測定時の条件の均質化と目視によるクロスチェックで補いながらデータ蓄積を行う必要がある点が明確化した。考古学諸分野での適用の際にも基礎的な共有すべき情報と言える。
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