本研究では重要な検討手法として、胎土などに関する理化学的な調査を行ってきたが、本年度には、連携研究者である白石純氏との共同調査により、新たな成果も追加した。その内容としては、緑釉陶器やそれと併焼される須恵器と、窯で用いられる窯道具と窯の本体を構築するために用いられた窯壁に加えて、その窯の近辺で確認される粘土層、ならびにその粘土を水簸したものについて、篠窯の大谷3号窯出土品やその周辺の資料をケース・スタディーとして、化学成分組成の比較検討を試みた。その結果、窯のベースとなる地点で掘り出される粘土は、窯壁や窯道具の胎土とほぼ一致することから、それらは窯の構築や窯道具に用いられていた可能性が高いことが判明した。しかし、その粘土は製品の胎土とは異なり、窯近辺の粘土を水簸したものも鉄などが減少するものの、製品とは厳密には一致せず、製品の製作に当たってより適した粘土を窯の周辺以外から調達していた可能性が指摘できた。 この種の検討は、これまで十分に行われたことがなかったため、今後も分析の成果を増やしつつ、製品原料粘土の調達や窯構築などの視点からの新たな研究視角と成果が期待される。 また、本研究の1つの柱である色調の測定に関しては、現状の考古学では測色計が普及していないことから、器械測定による成果の蓄積が難しい点が現実的な問題になっていた。そのため、目視による色彩同定は今後とも重要になるはずであるが、考古学で一般的に用いられる土色帳にはない緑系統の基準となる色見本が必要である。市販の色票もあるにはあるが、手頃に入手できるものではないことから、緑釉陶器の釉調と胎土の色調に参考となる主な色を抽出した色票を新たに試作した。このような色票を用いることにより、客観的な色表記の普及が可能となるものと予想される。
|