研究概要 |
本研究は、A)墓地や集落の構造から伺える社会組織、B)その表象としての葬送行為、祭祀、威信財、生産と交換の諸形態、統治機構の生成と構造、そして、C)それらの構造化に基磐的に関与した親族組織、等を考古学的・人類学的方法で分析・統合し、1)日本列島の弥生・古墳時代、ブリテン島の新石器時代末~鉄器時代の社会の複雑性・複合性増大の進展過程の復元、2)個々の段階における構造的特質の客観的析出、3)その変化の要因の特定と相互比較、をおこなうものである。 最終年度の本年は、上述ABCに関する分析の統合をおこなった。殊にその際、日本列島を構成するX)社会文化的単位地域内(例えば「北部九州地域」内)、Y)単位地域間(例えば「開始期前方後円墳ホライズン」を構成する単位地域間)関係の成層化を分析項目の主軸とし、まず、その進展の主要メカニズムを析出し、それとその他のファクターとの関係を検討することにより、日本列島とブリテン島それぞれの社会の複雑性・複合性の発展過程の特質比較を試みた。 昨年度来分析に導入し、成功をおさめてきたネットワーク分析の手法を全面的に展開して、日本列島、ブリテン島の双方で上述X,Yの位相で分析をおこなったところ、日本列島においては、単位地域それぞれのネットワーク中心性(ネットワーク中で創発する位相的ポテンシャルの差異)によって、単位地域間の成層秩序が相当程度説明可能なのに対し、ブリテン島では、中心性差異と考古資料から確認される成層構造が、地域間関係については相関せず、列島で進行したような広域社会統合も進展していない様相があきらかとなった。 その要因については、列島における、ある種の世界システムにおける<中心>(=中華帝国)へのゲートウェイが北部九州に限定されるのに対し、ブリテン島においては、新石器時代以来、それが南部海岸地域、イースト・アングリア地域、ヨークシャー地域等、複数分散したことが大きいことが推測され、その差異が、その後の両地域の地域システム的軌道とABCファクターの変容にもおおきな影響を与えたことを解明した。
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