研究概要 |
本年度は、既に先行して実施していた当該研究テーマの成果を6月にロシア・アルタイで開催された国際シンポジウムで発表した。その後、日本列島における黒耀石利用の始まりとヒトの動き(特にその進化上の段階)の復元に係わるモデルを検討した。仮説的モデルの骨子は以下の通り。中部日本に点在する黒耀石原産地と関東平野の消費地との間に、明確なヒトの移動経路が開かれるのは、中部日本に突発的に遺跡が増加する35,000年前と一致しており、標高1,500m〜2,000mの山岳部や太平洋上の神津島にある黒耀石をすでに探索・発見・利用している。約30,000年前には、黒耀石を管理・分配する体制が確立し、詳細は課題であるが複雑な交換ネットワークが形成された公算が高い。黒耀石原産地の発見は、未踏の地における網羅的な生存環境の探索に伴う偶発的な事件だったと考えられ、発見の当初は環境情報の一部として利用は発達しないが、石器原料としての優位性が認められるに従い、管理・分配する体制が発達したものと考えられる。環境探索に必要と想定される技術や装備(ただし考古学的には復元困難:航海技術等)、黒耀石管理・交換に見られる高い社会性の存在は、少なくとも中部日本における現代人的行動(Modern Human Behaviors)の登場を示し、先行する十分な地域的広がりを伴う石器文化を日本列島に見出せない状況から、背景に大陸から日本列島に移住した行動的現代人(ホモ・サピエンス)の定着過程を想定することが出来る。このように、周辺大陸で議論されている、現代人の登場問題に具体的にリンクしうる日本列島側での仮説のアウトラインを本年度は構築することが出来た。
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