研究概要 |
本研究課題は,日本列島への現代人(ホモ・サピエンス)の拡散時期とその様相,およびその後の定着過程に関する考古学的な仮説を構築することを目的としている。本研究課題により,次の三点について一定の結論を得ることができた。 (1)約40,000年から35,000年前に突発的に生じた遺跡数の増加と黒耀石利用の発展の過程は,日本列島における現代人的行動の登場に関する考古学的な証拠の一つとみなすことができる。 (2)40,000年以前の資料については,資料批判の観点からより確実な石器群の発見が必要であり,現状では,生物学的そして/あるいは考古学的な意味で,黒耀石利用を始めたヒト集団(現代人)と系統関係にあると前提することはできない。 (3)環状ブロック群という特異な集落形態の発生と発達は,現代人の日本列島における定着過程を背景としている可能性がある。 研究期間の最終年度である2010年度は,上記3つの要素を一貫したシナリオに構築するための作業を行った。具体的には以下の通り。まず,現状の考古資料にもとづき現代人の到達と後期旧石器時代の開始を説明することができる。そして,その後の海洋酸素同位体ステージ3後半における環状ブロック群の発生は,効率的な資源獲得に資する集団の再編成に起因し,その変遷は,人口増加を生起したと同時に現代人の日本列島への定着成功を反映しているという結論を得た。ただし,定着過程のプロセスをより具体的にかつ汎列島的に復元するためには,環状ブロック群を含む詳細な遺跡分析のケース・スタディーを蓄積する必要がある。
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