一遍聖絵を手がかりにして、中世成立期における地域の姿を再現することで、日本における都市の成立を考えることが、本研究のテーマである。本年はその二年次として、『一遍聖絵』の画像分析のための基礎資料として、画像情報のアーカイブおよび整理をおこない、同時に引き続き『一遍聖絵』に登場した諸地域および、同時期の都市遺跡の現地踏査をおこなった。 今年度は、なかでも港湾遺跡に注目し、新発見の阿波川西遺跡(徳島市)をはじめとして、伊豆韮山の北条氏館跡およびその周辺(伊豆の国市)、遠江見付と元島遺跡(磐田市)、石見益田の中須西原遺跡とその周辺(益田市)、肥後二本木遺跡(熊本市)、薩摩中郡遺跡(出水市)を踏査し、遺跡とあわせて遺物の検討もおこなった。また、中世前期都市の源流にあたる古代都城についても、平泉を遡り、胆沢城、志波城を踏査した。 中世都市を代表する景観が港湾都市であることは言うまでもない。けれども港湾都市についても、そのバックグラウンドと地域性および機能において、さまざまな形があり、それらを合理的に峻別することが、この時期の都市遺跡を考える上で非常に重要なことがわかった。一方、出水市の中郡遺跡と益田市の中須西原遺跡および善光寺門前遺跡には、共通する中国陶磁器の出土傾向がみられ、これらの中世都市を貫くなんらかの論理があったことも見て取れた。 さらに二本木遺跡や中郡遺跡は、中南の西九州を代表する鎌倉時代の港湾都市であるが、いずれも『一遍聖絵』には登場していない。一遍が巡った場所の意味を考えるヒントだと思う。
|