現代社会の基盤を構成する都市の源流は平安時代終わりから鎌倉時代に姿を現した。しかしその時の様子は必ずしも詳細に明らかにはされていない。本研究は、この日本における都市成立期の社会構造について、当時の列島各地の姿を描いた資料として有名な『一遍聖絵』を主な題材に、とくに景観の視点から、考古学・文献史学および地理情報学の協業によって明らかにすることをめざすものである。 (1)第1の課題は、『一遍聖絵』に描かれた鎌倉時代地域拠点の詳細な調査記録の作成である。本研究では、これらの地域を全て巡ることにより、それぞれの地域拠点がもっている諸属性を、遺跡をベースにして地理情報学的に見直すことで、中世前半の地域拠点の特質を描き出すことをめざす。 (2)次に本研究の課題とするのが、中世前期における都市成立背景の検討である。ここで注目しなければならないのは、北条氏に代表される海上交通のネットワークと同時にあったはずの内陸交通のネットワークである。本研究では一遍が2度訪れた「善光寺門前」に注目してこの問題を考えたい。 (3)一方、これまで注目してきたような『一遍聖絵』との関係を意識した地域拠点以外にも、同時代において拠点とされた場があったはずである。その点で『一遍聖絵』に登場しない地域拠点にも注目し、陸上交通と海上交通の両面で鎌倉時代の地域社会を復原したい。 (4)最終年度ではこれらの研究をまとめ、その成果をひろく一般に公開したい。
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