本研究は、自然科学的手法を応用して出土金属製品に残された製作時の痕跡や工具(製作用具)を調査し、(1)製作技術や工具の種類、技術の変遷を解明すること、(2)使用された材料や製作技術から金属製品の流通等について調査することを目的としている。具体的には、蛍光X線分析や鉛同位体測定による材料の特定、顕微鏡やX線CTスキャン、三次元計測による遺物の観察や構造調査により上記(1)、(2)を解明しようとするものである。 今年度は、装身具を中心に調査を行った。とくに古墳時代後期に広く流通する垂飾を持たない耳環について、昨年度試験的に実施した新しい自然科学的調査(X線CTスキャン法および三次元計測法)をさらに発展させ、古墳群や横穴墓群全体から出土した耳環を調査し、共同体内での配布状況や製作に関する情報を探った。その結果、百留横穴墓群(福岡県)から出土した耳環37点のうち、いくつかの耳環が同時に製作されたと推定できた。また別々の横穴墓から同時に製作された、もしくは本来一対であったと考えられる耳環が見つかった。 X線CTスキャンは、X線透過撮影と比べて損傷状況や内部構造、断面形状と言ったより多くの情報を得ることができる。とくに完形で内部の見えない中空耳環の調査では、板の接合方法や板端部の処理方法について明らかにすることができた。これらより工具について調査を広げたい。 韓国の調査では、先方の研究者とともに韓国内出土(おもに南部)の耳環の調査を行い、両国の相似点や相違点についての情報を得た。また韓国の古墳時代の装身具を復元製作している工房を訪ね、製作技法について探った。
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