本研究は出土金属製品に残された痕跡や古墳から出土する金属器製作用具(以下、工具とする)をX線CTスキャンや三次元計測など自然科学的手法で調査し、従来の考古学的成果とあわせて総合的に検討することにより、(1)製作技法や技術の変遷、工具の種類について明らかにすること、(2)材料や技術から製品の流通などの社会的背景を探ることを目的としている。 今年度は、平成20~22年度の調査分のうち、不足分を抽出し追加調査を実施した。あわせて出土品とすでに復元がなされた工具の比較調査を行い、刃先の形状や刃の湾曲度(丸み)等について検討し、工具を復元するための情報とした。金工用鏨については、遺物表面に彫り込まれた痕跡の違いを銅板に彫り込んで鑿による溝(痕跡)の違いを顕微鏡で観察した。彫金については金工作家・上野修治氏に依頼し、彫りながら確認して鏨の違いを検証しようとしたが、「表現したい線を打つたびに、使用中の鏨の刃先を調整するので用途別の鏨は存在しない」とのことであった。古墳時代においても同様の状況ではなかったかと推定し、今回は彫り方に合わせて、それぞれ鏨の刃先を調整したものを製作した。また、耳環の製作技法の情報をもとに、耳環を復元製作した。 今年度調査分のうち、遺物に残された工具の痕跡としては、大阪府一須賀古墳群から出土した耳環に、鉗子(ハサミ状工具)で挟んだと思われる痕跡や表面を平滑にするための箆状工具の痕跡が確認できた。また、直径1~1.5mm程度の凹みも確認できたが、工具によるものか否かは判断できなかった。 最終年度であったが、研究目的のうち、(2)の社会的背景を探るまでには至らなかった。しかし、古墳群単位で調査した耳環から集団内における配布状況などを推定する方法は確立できた。
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