今年度は、長野県中野市柳沢遺跡出土銅鐸・銅戈の成分分析が終了し、研究代表者の難波の事前の予想どおり、外縁付鈕1式銅鐸と大阪湾型銅戈a類は錫の含有率が高く、ヒ素やアンチモンをはじめとする少量元素の含有率が低いこと、これに対し、外縁付鈕2式銅鐸と九州型銅戈は錫の含有率が低く、ヒ素やアンチモンをはじめとする少量元素の含有率が高いことが確認できた。前者は朝鮮系、後者は中国系の金属原料を使っていると考えられる。しかし、これを検討するための基礎データとなる中国漢代の青銅器についての精度の高い成分分析例がない。そこで前漢の銅鏡3面について、成分分析を実施した。漢鏡の成分分析は、次年度も継続して実施する予定であり、これに基づき、弥生時代の中国系金属原料の流入状況などについての考察を試みたい。また柳沢遺跡出土青銅器や島根県加茂岩倉遺跡出土の銅鐸・銅戈について、以前の成分分析に使用したサンプルの残存分を使って、ICP質量分析法による鉛同位体比の測定が可能か、実験を試みた。その結果、前記の成分分析の結果からの推定を鉛同位体比の差異によって裏付けることができた。特に、加茂岩倉出土銅鐸は、現在は国宝に指定されており、資料を新たに採取して鉛同位体比を測定することは不可能であるが、このような形で測定できたことは非常に重要な成果である。 また、柳沢遺跡出土青銅器の評価に関係し、中期中葉における関東・中部高地における本格的な水稲耕作の開始や、畿内をはじめとする遠隔地との地域間交流の活発化に伴って、中部高地に外縁付鈕1式銅鐸や大阪湾型銅戈a類などがもたらされたと考え、その経緯などを分析・検討した成果を平出博物館での講演会で発表し、その講演録を作成・刊行した。
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