平成24年度は、兵庫県望塚出土銅鐸と中国漢代の銅鏡4面のICP分析を実施し、中国漢代の銅鏡に外縁付鈕2式以降の銅鐸とほぼ同濃度のヒ素とアンチモンが含まれていることを一層明確にできた。これにより、弥生時代には日本列島産の自然銅が青銅器の原料として使われており、弥生時代の青銅器中のヒ素とアンチモンは意図的な添加物であるとする説を明確に否定できた。すでに指摘したように、弥生時代の青銅器中のヒ素とアンチモンは原料の銅に不純物として含まれていたと考えるべきである。よって、鉛の朝鮮半島産から中国産への変化と連動して青銅中のヒ素濃度とアンチモン濃度そして両者の比率が大きく変化することは、鉛と連動して銅も朝鮮半島産から中国産へと変化したことを示しているのであろう。このように本年度の研究成果によって弥生時代の自然銅使用説を明確に否定できたことは、今後の弥生時代中期における半島や大陸との長距離交易の評価、さらには畿内弥生社会の評価にも多大な影響を与えると考えられる。 また、本年度の研究では、中国の史料や青銅器銘文、銅銭の重量などから、中国漢代の青銅の価格が1㎏当たり五銖銭300銭程度であったこと、漢代の平時の籾の価格が1石すなわち約20リットル当たり50銭程度であったことを明らかにし、これに基づき、弥生時代に倭人が朝鮮半島にあった漢の楽浪郡までいけば、どの程度の代価で青銅器の原料を入手できたかを解明した。たとえば、全高約60㎝の近畿式銅鐸の重量は約10㎏であるが、これだけの重量の青銅は楽浪郡ではほ籾1.2立方メートルを代価として入手できたことになる。この検討を基礎として弥生時代の青銅器の価格を初めて推定できるようになったことは、本年度の研究のきわめて重要な成果であり、これによって、弥生時代の青銅器やその原料金属の流通、そしてそれらの代価の移動を、具体的に量的に分析することが可能となった。
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