畿内を中心とする古墳時代から奈良時代を中心とする道路遺構の収集を行い、収集した資料は都市・近郊・農村という地誌的に分類した。さらに道路認識の鍵ともなる道路痕跡は構築時、改修時、使用時の痕跡に分類でき、構築時とも使用時とも分類できる波板状凹凸面についてはさらに資料を収集して検討する予定である。 こうした作業過程で、考古学による道路遺構の研究課題は計画的道路遺構の初現的な様相の復元とその歴史的意義の考察にあると考え、計画的道路遺構の出現の背景を考古学資料から検討した。その結果、巨大古墳の造営など土木構築物による大王権力の象徴化現象、韓半島からの築堤などの土木技術の導入と輸送手段としての馬・車両の導入などが挙げられた。これらは5世紀以降に想定されるものだが、畿内で5世紀代に遡る可能性が指摘されている近江・河内などの道路遺構は、出土遺物からみて6世紀以降に下る蓋然性が高いとみられ、5世紀代に遡る資料の有無をさらに調査していくことと、計画道路敷設が始まる時期の道路網の構造と背景の考古学的な考察が次年度以降の課題となる。 また、大陸での研究動向や資料の情報収集も行った。中国秦代の「秦直道」の発掘調査資料や中国古代交通史の諸研究の成果の検討で、地方の権力支配のための直線道路が紀元前に遡る可能性がある一方で、韓国における道路遺構の研究成果では、三国時代以降で6世紀前半が初現であるとみられ、我が国における計画道路の初現期の考察に重要な影響を与える大陸の計画道路の時期ついては、まだ確かな見通しを立てられる段階にはない。
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