5月に日本考古学協会第76回総会(於・国士舘大学)で、ルネッサンス期のヨーロッパでのマジョリカの使用例や生産・流通の形態、キリスト教との関係について研究発表を行い、好評価を得た。この内容は栄原永遠男編『日本古代の王権と社会』に収録され、10月に刊行された。 上智大学所蔵のキリスト教関係図書から16・17世紀のカトリックとプロテスタントの詳細な勢力分布を調べ、台湾はオランダ東インド会社V.O.Cがプロテスタントを伝えた地域であること、プロテスタントを推進するオランダやドイツでもカトリック勢力が根強かったこと等の情報を得た。 12月にヨーロッパで大坂出土品との実物比較を行った。オランダ・ユトレヒトNeude 31地点出土のV.O.C.帆船が描かれた17世紀のマジョリカ皿と、同時期に短期間操業されたユトレヒトOude Gracht99地点のマジョリカ窯出土品を実見し、窯の製品にカトリックが用いるI・H・Sモノグラムを描く製品があることと、大阪出土品、V.O.C.帆船文の皿ともこの窯の製品ではないことを確認した。 ドイツでは、ハイデルベルグに現存するイエズス会教会を訪問し、I・H・Sモノグラムの変遷と使用例を確認し、この教会が17世紀に一時プロテスタントに改宗するも、すぐにカトリックに戻ったことや、フランダースやオランダのマジョリカと類似の意匠を使ったガラス絵が残っていることがわかった。また、ワイマールでは、アルンシュタッドのマジョリカ窯から出土した在地のマジョリカと大阪出土品との比較を行って相違点を確認するとともに、この窯の製品が文様構成・器形などの点で、ユトレヒトやアントワープ製品と酷似することを確認した。ドイツの研究者はこの類似点を認識しておらず、後日資料を送付した。 このように、各国間の情報交換によりマジョリカの地域性をあぶりだせることがわかった。
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