研究課題/領域番号 |
20520673
|
研究機関 | 公益財団法人大阪市博物館協会 |
研究代表者 |
松本 啓子 公益財団法人大阪市博物館協会, 大阪文化財研究所, 主任学芸員 (20344377)
|
キーワード | 近世考古学 / 国際情報交換 / マジョリカ陶器 / オランダ連合東インド会社 / foglie文アルバレロ形壺 / 宗教改革 / 鎖国 / ルネサンス |
研究概要 |
平成23年度はポルトガルのマジョリカ陶器出土品・伝世品を検討した。ポルトガル産マジョリカは、16-18世紀の間、青と茶の顔料で文様を描くもので、大坂出土のアルバレルロのような多色使いではない。一貫して独自の手法を使って製作する点で、スペインやドイツのマジョリカ生産と似ていて、単色と多色文様の製品が混在し、製品や人が往来したイタリア・フランス・ベルギー・オランダとは異なる。 また、マジョリカとキリスト教との関係は極めて密接で、カトリックのドミニコ修道会・イエズス修道会・カルメル修道会の紋章やキリストを示すI・H・S文様などが多く意匠に使われている。また、これらの意匠を描いた景徳鎮製色絵磁器・青花が多く輸入されている。さらに、修道院向けの意匠をマジョリカ・タイルで構成する壁画も多く生産され、ポルトガル国教のカトリックが注文・購入し、彼らがマジョリカ工房にとっては大顧客で、生産基盤あったことが窺える。もちろん、イタリアやオランダ、スペインからの輸入マジョリカも使われているが、この中に大坂出土品のような多色使いのFoglie文は見られない。 ヨーロッパ諸地域のマジョリカの在り方も総合して考えると、当初、マジョリカエ房はカトリックと密接な結びつきがあり、16-17世紀の宗教改革期にカトリックとの関係を保持し続けるイタリア・フランス・スペイン・ポルトガル・ベルギーと、新たに販路を見出すドイツ・オランダとに変化するようである。 どの地域も大坂出土品と同一型式のアルバレルロは見られないが、大坂出土品の属性のうち、多色使いのFoglie文はフランスとベルギーに、寸胴形壺はオランダに、胎土はイタリア・トスカーナに類似点が認められる。これが鎖国・禁教令下の日本に輸入品であることも考慮すると、カトリックの使うFoglie文マジョリカを見知った者がオランダ連合東インド会社を介してカトリック色の薄いオランダの工房に注文したのではないかという考えに至った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、ヨーロッパ各地からの情報量が膨大で、しかも多言語であるため、うまく消化できていなかったが、昨年度・今年度の対比資料を検討しながら研究を進めたおかげで、理解が深まった。朧げではあるが、やっと大坂出土のマジョリカ陶器の産地を絞りこむ手がかりが見えてきた。こういった意味で、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年5月の日本考古学協会で、今までの研究成果を発表し、考古学的な見地からの意見交換・情報収集を行う。また、大坂出土品のマジョリカの産地の可能性のある地域では、近年、工房推定地や消費地の発掘調査が行われ、その整理も進んでいる。そこで関係諸機関と連絡を取り、可能であれば渡欧、または書面のやりとりで、出土品や出土状況、遺跡の性格と住人のキリスト教との関わりなどの情報を収集し、こちらの研究成果も提示して意見交換しながら研究を進める予定である。あわせて、アルバレルロが薬壺であるので、カトリック・プロテスタント双方のアルバレルロの使い方と、双方の薬関連の物流についても調べてみる。また、本研究の集大成として、研究成果を一冊の本にまとめる予定である。
|