本研究は鎖国期のヨーロッパ・マジョリカ陶器の大坂出土品を軸に、製作地や双方の社会的背景を探ることを目的とする。大坂出土品は寸胴で縦の色絵葉文が特徴の、ヨーロッパでアルバレルロと呼ぶ薬壺で、同様の壺は茶道の水指として伝世する。将軍墓・城郭・富裕な商人の屋敷・出島から出土し、17世紀後半に上流層に流通した輸入品である。ところが、ヨーロッパでは、日本の伝世・出土品の特徴である寸胴・縦の色絵葉文の組合せは見られないし、色絵葉文は16世紀代のもので、カトリックを嫌う鎖国期の日本の壺とは時期差があり、しかもアルバレルロはカトリックと強く結びつく薬壺であることがこれまでの調査で判明している。 平成24年度は5月に研究成果を日本考古学協会総会で発表し、10月の日本考古学協会大会でキリスト教関連の考古学・歴史学情報を収集して、長崎のマジョリカ出土品を調査した。結果、出土地層や共伴遺物、同時期の肥前磁器のアルバレルロ模倣品の文様から、日本の特徴的な葉文は17世紀の鎖国以降、カトリック禁止後のものであることが確認できた。 12月にはこういった研究成果を簡単な英文資料にまとめ、大坂出土品持参で、日本への積出地のオランダと、色絵葉文の産地のベルギーを訪問し、当地の窯跡出土品を中心に資料調査と情報交換を行った。結果、出土地層や文様の構成から、カトリック的な意匠を採用するマジョリカ工房は17世紀初頭までに衰退し、東インド会社関連の意匠は別の工房の製品であることがわかった。 宗教改革の中、カトリックに連動してマジョリカ工房も衰退し、一部の陶工はカトリックから離れて活路を見出し、こういった新たな工房が日本向けの、復古調色絵葉文の壺を作った可能性が高いことがわかった。このように、今まで展示品・収蔵品だけでは判明しなかった日本のアルバレルロの製作背景に迫ることができた点は、重要で、大きな成果であるといえよう。
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