研究課題/領域番号 |
20520675
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
小池 伸彦 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 都城発掘調査部, 考古第一研究室長 (90205302)
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キーワード | 考古学 / 歴史考古学 / 冶金考古学 / 古代 / 鉛 / 官営工房 |
研究概要 |
古代において鉛は、鉛ガラスの製造や金・銀の精製あるいは銭貨を構成する金属成分としてなど、多方面で利用されている。本年度分析・検討対象とした平城宮第70次出土金加工坩堝(取瓶)は、このうち金の精製に関わる可能性が考えられるものとして極めて重要な資料である。 この坩堝(取瓶)は直径約9cm、高さ約4.3cm、厚さ1.2~1.4cmの小型椀形で、内面に暗紫黒色の熔結付着物とともに、器壁に食い込むかのような直径約0.5mm球形金粒が認められるものである。この金粒の存在から、これが金の加工に強く関わることは確実といえるが、金粒と周囲の付着物を詳細に分析した結果、金・銀・銅・亜鉛・鉛・鉄などが検出され、主として金と銅の加工に用いられたものと推定できた。このことから、この坩堝(取瓶)の用途は(1)金の熔解、(2)銅と金の合金溶解、(3)金の熔解と銅の熔解の個別併用、(4)金の精製の4つの可能性が考えられた。 この坩堝(取瓶)は8世紀後半以降(天平宝字年間以降)に比定され、平城宮の内裏東外郭から第二次大極殿院東外郭にかけての地区に設置された官営工房で用いられていたものである。鉛を用いて銀を精製する灰吹法については山田慶児氏が8世紀末に日本に伝来したと指摘しており、それはおそらく灰吹炉を伴う技術であったと考えられる。本坩堝(取瓶)が鉛を用いた金の精製に関わるものであるとするならば、灰吹炉以前の精製技術として坩蝸が用いられていたこととなり、我が国における灰吹法の起源・系譜・変遷を考える上で極めて重要な資料といえる。 本年度の研究では、平城宮における金加工に関わる技術の一端を初めて明らかにしただけでなく、平安時代へと続く鉛の調整加工技術の変遷を考える上で非常に重要な成果を収めたといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
8項目の研究目的のうち、7項目について概ね達成できている。8世紀の平城宮における鉛調整加工技術に関わる資料を抽出、技術の一端が明らかとなり、関連する工房の所在も判明した。また、7世紀後葉の技術との比較が可能になったとともに、平安時代の技術への展開過程について展望を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ順調に研究が進展していると認められるので、これまでの研究成果を踏まえて、当初の計画に沿って研究を推進し、結果の取りまとめをおこなう。
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