平成24年度は、平城宮第32次補足調査で出土した冶金遺構について、その構造や出土遺物などを詳細に検討した。その結果、8世紀後葉~末の鉛・銅関連冶金遺構および鉄鍛冶遺構の存在が明らかとなった。 冶金遺構は、東から炉SL4162、冶金遺構(炉と土坑のセット)SX4178・4195~4197の順でほぼ東西に並ぶ。いずれの炉も地面を掘り窪めて構築する火床炉である。SX4178・4195~4197は群をなし(西群)、SL4162は単独でSX4178の東約6mに位置し、西群とは別の単位を構成する。 SL4162は従来まったく検討対象とされてこなかったが、実は特徴的な構造を有し、注目に値する。それは炉の南端から南へ、埋土に木炭が混在した長さ約60㎝の舌状の溝が延びている点にある。これに類似する小溝を備えた冶金遺構に平城宮第222次調査出土のSX14761があり、炉壁等の分析から銅精製用火床炉と考えている。また、SL4162の南東約10mの地点で、溝SD4100から鉛滓の付着した火床炉壁が出土している。このような、炉の位置関係や構造、周辺出土遺物からみて、SL4162は鉛あるいは銅の精製工程に関わる炉と考えられる。 西群のSX4178・4195は、上・下層で機能が異なる。下層遺構が銅に関連し、出土遺物からは銅の熔解・鋳造用であろう。上層は鉄鍛冶遺構で、沸かし鍛錬鍛冶と火造り鍛冶工程に関わる。SX4196・4197は銅鉄いずれとも決しかねる。 第32次補足調査出土遺構・遺物については、漠然と銅器生産に関連すると考えられてきたが、今回、8世紀後葉~末に比定される鉛・銅・鉄3種の冶金遺構の存在が判明した。これまで我が国最古の鉛冶金火床炉は9世紀後半であったが、それをおよそ半世紀も遡ると判明したことは、我が国冶金技術史・産業技術史上、重要な知見が得られたと言える。
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