研究概要 |
これまで世界の狩猟採集社会においては,集団の空間的流動性が共通して生じていることが報告されてきた。しかし,その流動性の程度については明確ではなく,申請者の研究によってアイヌの場合には結合の流動性・分裂の流動性として,それぞれ0~1の数値を用いて表現されてきた。これまで複数の民族間で流動性の程度を比較した研究例はなく,アイヌとオロチョンの空間的流動性の程度を比較して,事例数は少ないが,オロチョンのほうがアイヌよりも集団の空間的流動性の程度がより高いことを示した。オロチョンの流動性がより高い理由として,定住性の高い家で形成される紋別場所のアイヌ集落,定住する家と移動する家の組み合わせで形成される三石場所のアイヌ集落,移動性の高い家で形成されるオロチョン集落の順に,集団の空間的流動性は高まると考えられることを示した。また,アイヌ集落の研究によって,集団の空間的流動性には,血縁共住機能が備わっていることを示した。従来,世界の狩猟採集社会にみられる集団の空間的流動性には,紛争処理機能が備わっていると考えられてきている。このような従来の説とは異なるものとして,血縁共住機能を提唱した。また,3月11日の震災により延期となっていた史料調査が実施でき,学術雑誌へ投稿した。
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