研究概要 |
本研究の目的は,国内の肉用牛育成,肥育地域において,牛肉の品質および安全性の構築に向けたローカルな実践を明らかにすることである。初年度の今年はまず,牛肉の品質が産地内外でどのように認識されるかを探り,良質性実現のための実践に関する調査を栃木県と岩手県の和牛肉産地において実施した。調査に先立ち,文献サーベイにより食料の「質」の構築プロセスにおける主体間関係の捉え方を整理した。つづいて自治体独自の肉牛の飼養管理情報をWeb上で公表している国内21例について,その内容を吟味した。それら情報提供は、産地(生産者)や給与飼料の明示に偏り,消費者の「安心」の形成に重点を置いていることが明らかとなった。 次に「とちぎ和牛」の品質の評価と,良質肉生産のための地域的取り組みについて,全農栃木県本部,東京食肉市場,栃木県鹿沼市内の肉用牛肥育農家に対する聞き取り調査を実施した。年間2500〜3000頭が生産される「とちぎ柏牛」ば,定量上場される銘柄として東京市場で評価されているが,枝肉単価は市場平均並みでありブランド力形成に課題を残す。県内の矢板家畜市場に上場される子牛(肥育素牛)の血統の多様化は,「とちぎ和牛」の品質特性をわかりにくくする一方で,肉質と増体のバランスがとれた去勢牛肥育という産地の性格を強化している。県下トップクラスの枝肉販売価格を誇る鹿沼市では、和牛肥育部会員が肉牛の血統,飼養管理,販売価格に関する情報を常に共有し,全体のレベルアップを図ってきた。またJA担当者の営業活動によって同地域産の「とちぎ和牛」が良質であることが市場購買者の間で評価されるに至っている。一方,品質の構成要素である給与飼料には,東京市場のトップブランドである岩手県の「前沢牛」と明確な差異があることも判明した。
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