今年度は、前年度までに行った各種調査の記録を精査したり、収集されたデータを分析したりするなどして、日本発の中古車(廃車)の流通の実態を明確にした。ロシア・UAE・ニュージーランドの三カ国(「御三家」という)向けの輸出について、日本からの輸出港の変遷や、流通量の変化の要因について整理することができた。特にUAE向けを「中継貿易拠点」として重視し、これまでブラックボックスであった再輸出先の経年変化を明らかにした。海外における中古車や中古部品の輸入に関わる産業の立地状況や取引構造の把握も進んだ。特に前年度に行ったドバイ・シャルジャの調査結果をまとめる過程で、それら地域の立地や取引構造の特徴について整理し、エスニックネットワークが重要な役割を果たしていることを明らかにした。自動車リサイクル(廃車処理)についても、研究協力者によって、廃車回収インセンティブの観点から、御三家別に、産業の立地状況の差異について整理している。 これらの廃車流通とリサイクルネットワークの形成に関わる研究が経済地理学的にどのような意義を有するかについては、2010年度前半に集中的に文献研究を進めた。既存の文献研究からは、廃棄物の移動と処理施設の立地の関係を扱う研究は国内を対象とするものにとどまっていることがわかった。従って、国際的な廃棄物移動と関連施設の立地を対象とする本研究は、素材の新しさ、という点で経済地理学的に意義深い研究であることが確認された。
|