計画年度3年度目に当たる平成22年度には、前年度に引き続き、広東省民族研究所(現・広東省民族・宗教研究院)でこれまでに収集した族譜資料について、その整理作業(リスト作成、ページ振り、インデックス作成等)ならびに一部資料についての分析を行った。既に主要部分についてコピーならびに写真撮影により画像資料を入手している広東省民族研究所所蔵の族譜資料に関して、形のゆがみなどをPC上でレタッチソフトなどを用いて修正する作業を行い、主要な族譜についてこれを完成させた。 次に内容分析に関しては、昨年に引き続き広東省北部南雄市地域のショオ族(雷姓、藍姓)の族譜を主たる分析の対象として、以下の点が明らかとなった。清代から民国期にかけて編纂された旧族譜に関しては、内容的に非漢族出自を示すような要素は一切見あたらない。むしろ、漢族の中でも客家系の宗族がその中原からの移住の中継点としてしばしば言及する寧化や汀州といった福建省西部の地名への言及が認められ、この限りでは客家系の漢族との近縁性・共通性がうかがえる。他方、同じ族譜の中に、広東本地人系の宗族がその祖先ゆかりの地として挙げる広東省北部の南雄珠〓巷への言及も見出され、この意味では漢族の中でも広東本地人との関係がうかがえる。これらは、彼らショオ族の人々がその移住経路上においてまず福建省西部において客家系の人々と、そしてその後に広東省北部において広東本地人系の人々と深い社会関係をもったことを示すものと考えることもできようが、別の解釈としては、彼らの族譜編纂過程において、客家系、広東本地人系を問わず周囲の有力宗族の移住伝承を吸収し、それらをつなぎ合わせることによって族譜としての体裁を整えていった可能性も考えられる。これらは未だ仮説の段階にとどまる。
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