本研究の目的は東アフリカ牧畜民の集団関係を個人間関係というミクロなレヴェルから、人類学的に検討するものである。具体的にはウガンダのドドスと、隣接集団であるケニアのトゥルカナに焦点をあて、敵対と友好・許容の二相を行き来する集団間関係の重層性を解明するとともに、そうした現象が集団の形成や編成、維持にどのように関わっているのかを考究するものである。両者の関係を具体的に知るためには片側の集団からのアプローチだけではなく、双方向的な臨地調査が重要でありかつ有効であり、同時に比較研究の視座を得ることもできると考えられるため、本来であれば、ドドス、トゥルカナの両フィールドで臨地調査をおこなう予定であったが、平成20年度は、ウガンダの政情不安からドドスのフィールドには入れず、ケニアのトゥルカナにおいて1か月半の臨地調査をおこなった。 調査にあたっては、レイディング(家畜の略奪を狙った襲撃)という敵対的な事象に関する資料を収集するとともに、民族集団を越えた家畜の贈与や交換といった個人間の友好的なやりとりや放牧地や水場へのアクセスの許容といった具体的な相互交渉をていねいに追う一方で、個々別々の人びと(家族や世帯)の家畜群を対象として、実際の家畜の増減を通時的に追った。これら臨地調査に置いて収集された資料から実質的な集団間関係の重層性を明らかにするため、民族集団対民族集団といったマクロな視点では抜け落ちてしまいがちな個人的、個別的な行為、行動によって生成する集団間関係のありようを把捉し、質的、数量的な解析をおこなった。 加えて国内においても、京都大学や滋賀県立大学、岡山大学等、各研究機関において、本研究に関わる研究者の有する情報や資料の収集をおこなった。
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