本研究は、東アフリカ牧畜民の集団間関係を個人間関係というミクロなレヴェルから検討するものである。ここではウガンダのドドスと、隣接集団であるケニアのトゥルカナに焦点を絞り、比較資料として補助的にケニアのチャムスをあつかった。ドドスとトゥルカナの間には家畜の略奪(レイディング)という敵対的な相互行為が頻発しているが、そのいっぽうで、双方の集団に属する個人間には家畜の贈与や交換をはじめとする友好的な相互行為がごくふつうにみられる。これまで説得力のある説明がなされてこなかった敵対と友好・許容の二相を行き来する集団間関係の重層性を解明するとともに、そうした現象が集団の形成や編成、維持にどのように関わっているのかを考究することが本研究の目的であった。 上記の目的に沿って、平成21年度はドドスおよびトゥルカナにおいて臨地調査をする予定であったが、前者はウガンダ北東部の政情不安のため調査地にはいることができず、トゥルカナとチャムスで1カ月半の臨地調査を実施した。調査にあたっては、レイディングという敵対的な行為に関する資料を収集するとともに、家畜の贈与や交換といった個人間の友好的なやりとりや、放牧地や水場へのアクセスの許容・黙認といった具体的な相互交渉をていねいに追う一方で、個々別々の人びと(家族や世帯)の家畜群を対象として、実際の家畜の増減を通時的におうことを心がけた。これにより、友人関係や新姻族関係といった社会関係が民族の枠組みを越えて人びとの生業基盤である家畜の増減に与しているかが明らかになった。データは整理・分析中であるが、こうした作業を通じて民族集団対民族集団といったマクロな視点では抜け落ちてしまいがちな個別的な行為、行動によって生成する集団間関係のありようを把握し、質的、数量的な分析を加えることにより、実質的な集団間の関係の重層性が明らかにされうると考えられろ。
|