本年度は、フィリピン南部のスールー諸島およびその周辺地域(スールー海域世界)を含む東南アジア海域世界に生活する多様な海洋民たちの生産するいわゆる特殊海産物(ナマコ、フカヒレ、真珠、真珠母貝、燕の巣など)の生産(採取)と利用に関して調査研究を実施すると同時に、最終年度であることに鑑み、その流通と消費の歴史的変遷に関しても補足調査を実施した。具体的にはフィリピンならびにアジア域外を結ぶ特殊海産物の流通・消費・技術移転等のネットワークや各地の多様な利用の実態などに関してフィリピンならびに歴史的資料に関してはロンドンにおいて資料の収集と分析を実施した。フィリピンでは真珠に関してアコヤ貝真珠、白蝶真珠や黒蝶真珠、マベ貝真珠の生産(養殖)と流通に関して補足の調査を資料の分析を行った。またロンドンではかつて「マニラ真珠」の名で総称されたことのあるスールー・ボルネオ周辺地域産の真珠の生産・採取と利用の歴史的変遷などについて主に文献資料を中心に調査研究を実施した。加えてこうした海産物生産が現地社会のみならず加工地や消費地にどのような影響を及ぼしてきたのかに関しても資料収集と分析を実施した。さらに理論的な立場から、こうした事例が「もの」(物質文化)研究において何を意味するのかという点に関しても考察と分析を実施した。なおスールー海域世界における特殊気産物の移動・流通・交易をめぐる調査研究の成果の一部は拙論「流動と生成―スールー海域世界の民族誌」(東京大学総合文化研究科博士学位論文pp.1-251)や「スールー海域世界から見える複数のグローバリゼーションズ」(三尾裕子・床呂郁哉編2013『グローバリゼーションズ』pp.31-51、弘文堂)などの論文を通じて公表したところである。
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